その国のものを食べて、その国の言葉を話す。
そういうことを続けていると、体はその国の食でつくられていき、顔の骨格もその言葉を話すようにいくらか変わってくることだろう。
体が変わると心が変わり、心が変われば体が変わる。
予約していた散髪屋に着くと、理髪師が来るので少し待ってね、と回転椅子が回された。
大きめの白いシャツと若草色のゆったりとしたズボンに黒の革靴を履いた男性が、鏡越しに僕の後ろに立つ。
ニコリと笑って言う。
「こんにちは、今日はどうしますか?」
僕は、iPhoneの中の少し前の自分の写真を見せる。
「こんな感じにお願いします。」
「後ろはどうします?」
「うん、だいたい写真のような感じにしてもらって、あとは任せてもよいですか?」
「オーケー。大丈夫です。じゃあ、まずはシャワーをしましょう。」
滑らかな英語で話しかけられたので、こちらも英語で答える。
後頭部を支えられながら、リクライニングのシートを倒すと顔の中央に目から口までを隠すように少し厚めの柔らかいティッシュのような紙を被せられる。中途半端なサイズのせいで、鼻息や扇風機の微風で紙がめくれあがるんだが、洗髪の人の手が濡れているため、しばらくそのまま放って置かれてしまう。別に化粧をしているわけでもないし、顔が濡れたらを後で拭かせてもらえれば十分だ。目線を遮るような役割もあるんだろうが、僕には過剰だ。些細なことを考えるが、まあそれはどうでもいい。
他人に洗髪をしてもらうという快感を終えて、再び回転椅子が回される。
髪を乾かしてもらいながら、さきほどの理髪師が鏡に映っているので
ぼんやり眺めていると、彼が日本人の話す日本語を話している。
襟足の辺りに大きめの鏡をかざして「いかがですか? 後ろはこのようになっています」みたいなことを言う『お決まりのやつ』をやっている。ああ、日本人だったのか。
僕のところに戻ってきて、再びニコリと笑顔を作った理髪師は「じゃあ、はじめていきましょう。」と英語で言うと、商売道具である鋏や櫛やらの入ったベルトを腰に巻きつけた。
「日本人ですか?」とか「日本からですか?」とかいう質問が無粋な場面ってのがあるよな。
いつものサウナで、髪に白いものが混じった白人男性が、どこか不安げに床を見まわしている。湯船に浸かりながら読んでいた本を閉じて「何か落としましたか?」と尋ね、鍵を探す。その後、さきほどの男性が、日本人が人の間を通過する時なんかにやる、合掌を片方の手だけでやって、それを顔の前で縦に揺らしながら「ちょっとすいません、ちょっとすいませんよ」という仕草をつくりながら、熱いくらいの湯に身体をしずめて「カントウ? カンサイ?」と日本語で聞いてきて「関東。東京から。」という感じで話がはじまった。スマートな始まりじゃないか。
頭と気分が軽くなった僕はレジに立つと、予約表の紙に書かれている大きな「TOTO」という文字を見つけて、心の中でクスリと笑った。なるほど、そうだったのか。「GOTO」という名前をタイ人が聞き間違えて「TOTO」とう名前で予約されていたのだろう。
僕のニックネームはマサで、仕事で会う日本人以外にはこれを使っているのだが、バンコクにいると仕事の場に日本人とタイ人が同席することもあるので、仕事では「GOTO」を名乗ることにしている。その習慣で予約の際に名乗った「GOTO」だが、メールアドレスを伝える場合のように、どうしても間違えたくない話ではなかったので「G-Google、O-Osaka」みたいな言い方でなく、一音ずつ区切って「G・O・T・O」を2度繰り返しただけだった。
いい響だな、TOTO。捨て猫を拾ってきたらそう呼ぼう。
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